売り手市場、買い手市場ってなに?

「今は空前の『売り手市場』だから、転職するなら絶対に今です!」――転職サイトのバナーやアフィリエイトブログ、あるいは経済ニュースで、毎日のようにこのフレーズを目にしない日はありません。しかし、そう言われていざ応募してみたら、書類選考で落とされまくる。「一体、売り手市場って何なんだ?」と不信感を募らせていませんか?

結論、「売り手市場だから転職がイージー(簡単)になる」というのは、完全なる幻想であり、メディアが作り出したまやかしです。現代の売り手市場のリアルな裏事情は、『企業は人手不足で悲鳴を上げているが、誰でもいいから採りたいわけではない』という、極めて歪んだ構造をしています。

今回は、知っているようで実は誰も正しく説明してくれない「売り手市場・買い手市場」の本当の意味と、その言葉の裏に隠された中途採用市場の残酷な格差社会について解剖します。

そもそも「売り手市場」「買い手市場」とは何か?本質を3秒で理解する

まずは基本の概念です。これを理解するだけで、世の中の怪しい就職ニュースの嘘を見抜けるようになります。要は「主導権(立場)がどちらにあるか」というバランスの話です。

1. 「売り手市場」= 主導権が【求職者(労働力を売る側)】にある状態

企業の求人数(買い注文)に対して、転職を希望する人(売り物)が不足している状態です。経済用語でいう「有効求人倍率」が1.0を大きく超えている状態(例:1.5倍=100人の求職者に対して150件の求人がある)を指します。企業側は「お願いだから自社に来てください」と頭を下げる立場になり、年収アップの提示、年間休日数の増加、選考プロセスの短縮など、求職者にとって有利な条件が提示されやすくなります。

2. 「買い手市場」= 主導権が【企業(労働力を買う側)】にある状態

不景気や震災、パンデミックなどの影響で、企業が採用枠を絞り込み、逆に失業者や転職希望者が溢れている状態です。有効求人倍率は1.0を下回ります。企業側は「代わりはいくらでもいる」という強気な態度(上から目線)が取れるため、選考基準を極限まで跳ね上げ、より優秀な人材を、より低い年収で買い叩くことが可能になります。

【プロの裏事情】ここ数年、日本の転職市場は数字上「売り手市場」が続いています。しかし、ここには巨大な罠があります。この数字を引き上げているのは、主に「飲食、小売、建設、介護、運送」といった、万年深刻な人手不足に悩む労働環境の過酷な業界です。あなたがもし「ホワイト企業の土日祝休み、リモートワーク可の企画職」といった人気の求人を狙う場合、そこは売り手市場の真っただ中であっても、倍率数十倍の「超・買い手市場」になっています。

現代の売り手市場が牙をむく。「二極化」という残酷なリアル

「全体的に売り手市場だから、自分も有利に転職できるはず」という思い込みは、ミドル世代の転職において最も危険な罠です。現在の売り手市場は、一昔前のような「猫の手も借りたい」というバブル的な状況とは180度異なります。現場で起きているのは「厳選採用」です。

【厳しい現実:売り手市場の恩恵を1円も受けられない人】
前述の「キャリアの棚卸し」を怠り、20代と同じような「指示されたことを真面目にやってきました」というアピールしかできない30代後半以降のミドルです。企業は人手不足ですが、それは「自社の既存メンバーの負担を減らし、すぐに利益をもたらしてくれる即戦力」が足りないという意味です。教育コストがかかる人や、ポテンシャルしか武器がないミドルは、売り手市場であっても容赦なく「不採用」の山に埋もれます。

【富の一極集中:企業から奪い合いになる人】
一方で、今の時代に求められる「特定の専門スキル(例:DXを推進できるIT知識、海外事業を立ち上げられるグローバル営業力、組織のコストを劇的に削減できる管理スキルなど)」を持つ人は、企業間で熾烈な強奪戦(争奪戦)が繰り広げられます。転職サイトに登録しただけで、役員面接確約のスカウトが数十通届き、年収が1.5倍、2倍に跳ね上がるような現象は、この「一握りのレア人材」だけに起きている、売り手市場のリアルなバブルです。

市場の波に翻弄されないための「クレバーな転職戦略」

では、私たちはこの「売り手市場・買い手市場」という市場のサイクルと、どう向き合って戦っていけばいいのでしょうか。プロが実践する2つの生存戦略を提示します。

  • 市場の「潮目(トレンド)」を正しく読む: 景気のサイクルは必ず循環します。今は売り手市場でも、数年後には世界的な不況で一気に買い手市場に転じるリスクは常にあります。だからこそ、「まだ企業が強気になれない(売り手市場の)うちに、より条件が良く、不況に強い安定した企業へ滑り込んでおく」という、時間軸を意識した立ち回りが極めて有効です。
  • アフィリエイトブログの「今がチャンス!」を無視する: 巷のレビューサイトや広告が「今すぐ転職エージェントBに登録しよう!」と叫ぶのは、売り手市場の時期ほど企業からエージェントへの成果報酬が高くなり、彼らが儲かるからです。その煽りに乗って焦って動くのではなく、まずは自分のスキルが今の市場で「売り手(有利)」として通用するのか、客観的な時価(市場価値)を確かめることが先決です。

大切なのは、周囲の「売り手市場」というお祭りの騒ぎに浮足立たず、自分自身の足元を冷徹に見つめる知性です。

目指すべきは、どんな市場でも「あなた独自の売り手市場」を作ること

マクロ(国全体)の経済データが売り手市場であろうが、買い手市場であろうが、本質的な話をすれば、あなたの人生には関係ありません。なぜなら、あなたが最終的に入社して幸せになれる会社は、世界に「たった1社」あればそれでいいからです。

あなたが目指すべき究極のゴールは、世の中の景気に左右されることのない、「あなたという唯一無二の商品を、企業が喉から手が出るほど欲しがる、あなただけの売り手市場」を、キャリアの棚卸しと専門性の掛け算によって作り出すことです。

自分の武器を正しく翻訳し、相手の痛みに合わせて差し出す技術さえあれば、たとえ時代が100%の「買い手市場(超不景気)」に突入したとしても、あなたは常に有利な立場で、望むキャリアと年収を勝ち取り続けることができます。市場の言葉に惑わされず、市場を支配する側のビジネスパーソンになってください。応援しています。

※本コラムは、今後の有効求人倍率や景気動向を確定的に予測するものではありません。転職市場の需給バランスは、業界、職種、年齢、地域によってミリ単位で細分化されています。各種プラットフォームが提示する全体平均の数字を鵜呑みにせず、自分のターゲットとする領域の「真の倍率(裏事情)」を、信頼できるアドバイザーを通じて見極めることを強く推奨いたします。